テレビ番組で紹介されていた「日本のサイバーセキュリティ関連銘柄」8社を、業績・株価・企業価値の数字から全部調べました。結論を先に言うと、国策の追い風は「本物」ですが、株価はすでに大きく先行しています。花が咲くかどうかは、「政策で生まれる需要を、どの会社がどれだけ取り込めるか」と「今の株価がどこまで期待を織り込んでいるか」の2つで決まります。
※株価・指標は2026年11月2日終値時点。各社の決算は最新の通期実績と今期会社予想に基づきます。
1. なぜ今「国策テーマ」なのか ― 法定義務という強い追い風
今回のテーマが単なる思惑と違うのは、需要が法律で義務化された点です。
- 能動的サイバー防御(ACD)の法整備:関連2法(サイバー対処能力強化法ほか)は2025年5月に成立。2026年10月1日に「官民連携」と「攻撃元へのアクセス・無害化」が施行され、警察・自衛隊による無害化措置の運用が始まりました。残る「通信情報の利用」は2027年秋に施行予定で、制度整備はまだ道半ば=今後も需要が積み上がる構造です。
- 基幹インフラ258事業者に義務発生:電気・ガス・水道・通信・金融など15分野の基幹インフラ事業者には、2026年10月から「資産の届出」と「インシデント(事故)の報告」が義務付けられました。報告・監視・検知の体制づくりは任意ではなく必須であり、セキュリティ製品・サービスの需要が制度として生まれます。
- 政府の体制と予算:2025年7月に内閣官房に「国家サイバー統括室(NCO)」が発足し、サイバーセキュリティ戦略本部は首相を本部長とする体制に格上げ。政府全体のサイバー関係予算は2025年度で約2,051億円(うち約3分の2は防衛省)です。
- 市場の成長性:IDC Japanによると、国内セキュリティソフトウェア市場は2024年の5,861億円から2029年に約1兆307億円へ、年平均12%成長の見通しです。
一方で、留保も必要です。政府予算の規模は防衛費(年間約9兆円)とは桁が違い、製品市場では外資系ベンダーが約6割のシェアを握っています(総務省「情報通信白書」)。政策で需要が増えても、その受け皿が必ず国内の上場企業になるわけではありません。
2. 8銘柄の比較表(2026年11月2日終値時点)
| 銘柄(コード) | 株価 | 時価総額 | 直近通期売上高(前期比) | 営業利益(前期比) | PER(予想) | PBR | 配当利回り(予想) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| トレンドマイクロ(4704) | 7,154円 | 約1兆円 | 2,760億円(+1.2%) | 578億円(+20.1%) | 30.3倍 | 8.03倍 | 約2.6% |
| グローバルセキュリティエキスパート(4417) | 8,470円 | 約1,297億円 | 110億円(+25.2%) | 22億円(+38.6%) | 63.7倍 | 22.9倍 | TOB中(下記参照) |
| HENNGE(4475) | 2,022円 | 約679億円 | 109億円(+30.6%) | 18億円(+76.7%) | 39.7倍 | 15.5倍 | 約0.54% |
| FFRIセキュリティ(3692) | 7,600円 | 約622億円 | 43億円(+43.1%) | 14億円(+67.0%) | 53.1倍 | 16.0倍 | 約0.24% |
| ソリトンシステムズ(3040) | 2,942円 | 約581億円 | 198億円(+6.2%) | 28億円(+39.2%) | 20.4倍 | 3.85倍 | 約2.45% |
| サイバーセキュリティクラウド(4493) | 2,880円 | 約299億円 | 51億円(+31.8%) | 11億円(+42.6%) | 34.1倍 | 6.4倍 | 約0.21% |
| ブロードバンドセキュリティ(4398) | 2,399円 | 約111億円 | 68億円(+11.1%) | 5億円(+98.4%) | 22.6倍 | 4.4倍 | 約0.71% |
| セキュアヴェイル(3042) | 977円 | 約75億円 | 13億円(+11.3%) | 1億円(+220%) | 79.1倍 | 6.3倍 | 約0.31% |
読み方のポイント:規模も評価もバラバラです。PERが20倍台のソリトンシステムズ・ブロードバンドセキュリティと、60〜79倍のグローバルセキュリティエキスパート・セキュアヴェイルでは、「期待の織り込み度」がまるで違います。
3. 個別分析
トレンドマイクロ(4704)― 圧倒的な本命。ただし今期はAIコストで減益予想
世界有数のセキュリティ専業で、法人向け統合プラットフォーム「Trend Vision One」と個人向け「ウイルスバスター」が柱。2025年12月期は営業利益+20.1%。総還元性向100%を掲げ、配当は1株185円(利回り約2.6%)と還元も手厚い銘柄です。注意点は、2026年12月期はAI・クラウド関連コストの増加で営業利益が-23.2%の減益予想に下方修正されていることと、円高に弱い収益構造です。「国策銘柄」というより「世界のセキュリティ需要そのもの」を取る銘柄と言えます。
グローバルセキュリティエキスパート(4417)― アクセンチュアがTOB中(上場廃止予定)
「セキュリティ教育カンパニー」を掲げ、診断・コンサル、エンジニア教育(資格認定「セキュリスト」など)、人材派遣の3事業で、深刻なセキュリティ人材不足そのものを収益機会にしています。売上は4期連続で年+25%前後の成長、営業利益率20%超、配当性向約35%を維持しながら4期連続増配と、成長と還元の両立が進んでいます。ただしPER約64倍・PBR約23倍は8銘柄中でも突出した高評価で、成長が鈍れば調整も大きくなる水準です。
【重要・2026年11月4日追記】2026年10月30日、アクセンチュアが1株8,500円で公開買付け(TOB)を実施すると発表しました。買付期間は11月2日〜12月15日で、同社の取締役会は賛同し、株主に応募を推奨しています。成立すればアクセンチュアの完全子会社となり、上場廃止の予定です。11月2日の終値8,470円はTOB価格とほぼ同水準で、株価はTOBの成否に連動する局面に入っています。また、TOB成立を条件に2027年3月期の期末配当(1株24.56円の予定)は無配となり、株主優待も廃止されます(中間配当24.55円は予定どおり支払い)。このため本記事のランキングでは参考扱いとしています。
HENNGE(4475)― 解約率0.33%の強いSaaS
クラウドセキュリティSaaS「HENNGE One」(シングルサインオン・アクセス制御・メール誤送信対策)が売上の約94%。契約3,427社・約280万ユーザー、ARR(年間経常収益)は前期比+27%の111億円、月次解約率0.33%とストック性が非常に強いビジネスです。2025年9月期は売上+30.6%・営業利益+76.7%。自治体のクラウド移行・ゼロトラスト推進が直接の需要になります。PER約40倍と評価は高めで、事業の単一依存がリスクです。
FFRIセキュリティ(3692)― 国策のど真ん中。ただし株価もど真ん中の高さ
純国産の「ふるまい検知」型エンドポイント製品「FFRI yarai」と、政府・防衛向け「ナショナルセキュリティ・サービス」が柱。2026年3月期は売上+43.1%・営業利益+67.0%、営業利益率31%超と、8社で最も国策の恩恵を直接受けている会社です。政府が求める国産技術という点で競争優位は本物ですが、PER約53倍・PBR16倍と評価は極めて高く、2027年3月期第1四半期は人件費増で営業利益-30%の減益スタート。実力と株価の温度差に注意が要ります。
ソリトンシステムズ(3040)― 官公庁に強く、8社で最も「増配株」らしい
ネットワーク認証で国内シェアNo.1の「NetAttest EPS」など自社製品が主力で、官公庁・自治体・防衛の実績が厚い会社です。2026年12月期は予想を上方修正し、営業利益+37.1%見込み。注目は株主還元で、配当は1株72円予想・6期連続増配、利回り約2.45%は8社で上位、PERも20.4倍と相対的に落ち着いています。自治体のセキュリティ強靱化・ゼロトラスト移行が直接の追い風です。リスクは官公庁の大型案件への依存による四半期業績のブレです。
サイバーセキュリティクラウド(4493)― クラウドWAFの国内No.1
AIでWeb攻撃を検知・遮断するクラウド型WAF「攻撃遮断くん」と、AWS/AzureのWAF自動運用「WafCharm」が柱。ARRは約50億円(+22%)で、2025年12月期は売上+31.8%・営業利益+42.6%、営業利益率21.7%と高成長・高収益です。一方、今期の営業利益予想は+8.9%と成長率の鈍化が見込まれており、PER約34倍との兼ね合いが焦点。時価総額約300億円の小型株で値動きの荒さもあります。
ブロードバンドセキュリティ(4398)― 診断から運用まで一気通貫
セキュリティ監査・コンサルティングから、マネージド検知・対応サービス「G-MDR」まで包括提供する中堅です。2026年6月期は営業利益+98.4%と大幅回復し、今期予想も+46.8%。増配基調(16円→17円予想)に加え株主優待(デジタルギフト)もあります。PER22.6倍はテーマ内では控えめ。ただし2025年6月期に営業利益が-62.6%まで落ち込んだ実績があり、プロジェクト型収益ゆえの業績の振れの大きさが弱点です。
セキュアヴェイル(3042)― テーマ相場の象徴
統合ログ管理「LogStare」と運用監視サービスに特化。インシデント報告義務化で「ログ管理」の需要が増える領域自体は政策と親和性が高いのですが、会社規模は売上約13億円・時価総額約75億円と最小です。2026年10月には約334円から一時1,703円まで急騰した後、11月2日には977円まで下落。PER約79倍、直近四半期は赤字転落、今期は減配見込みと、業績と株価の乖離が8社で最も大きい銘柄です。
4. テーマ相場の現在地 ― すでに一度「咲いて」いる
実はこのセクター、2026年10月に株式市場の注目テーマ1位となり、空売りの買い戻しを伴う急騰(いわゆる踏み上げ相場)が起きたばかりです。セキュアヴェイルは約1か月で一時5倍、ブロードバンドセキュリティも一時3,270円まで買われた後2,399円まで調整しています。つまり「これから花が咲くか」という問いには、株価の面では一度大きく咲いて、現在は期待の織り込み直しの最中というのが実態です。
防衛関連株の先例が参考になります。2022年の安保3文書後、三菱重工業の株価は1年3か月で3.5倍になり、防衛省との契約額も実際に4.6倍に増えました。政策テーマでも業績は本当に伸びたのです。ただ、その後も好決算が続いた局面で株価の勢いが一服した時期があり、「業績拡大=株価上昇の継続」とは限らないことも先例が示しています。
5. 結論:国策銘柄として花は咲くのか
政策の追い風:本物です。 法定義務(届出・報告)による需要は景気に左右されにくく、2027年秋の全面施行に向けて今後も積み上がります。国内市場も年12%成長が見込まれる構造的な成長市場です。
ただし、3つの留保があります。
- 政府マネーの規模感:サイバー関係予算は年約2,000億円で、その大半は防衛省の自前システム向けです。防衛費のような「兆円単位の発注」が民間全体に降りてくる構図ではありません。
- 外資の厚い壁:製品市場は外資が約6割。需要増の果実を国内上場企業がどれだけ取れるかは、各社の競争力次第です。国産であること自体が強みになる領域(政府・防衛・重要インフラ)を持つ会社と、そうでない会社で差が出ます。
- 株価は先行済み:PERは20〜79倍まで広がっており、特に小型株は業績ではなく需給で動いている面があります。花が咲く(業績が伸びる)ことと、株価がさらに上がることは、別の話として分けて考える必要があります。
セクター全体としては「制度に裏付けられた息の長いテーマ」になる可能性が高い一方、銘柄ごと・株価水準ごとの差が極端に大きいテーマでもあります。テーマの熱狂ではなく、各社の受注と利益の伸びが株価に追いついてくるかを、決算ごとに確認していくのが現実的な向き合い方です。
6. 分析ランキング(総合評価)
「業績の実力・成長性」「株価の割高感(PER・PBR)」「国策との近さ」「株主還元」の4点を総合した評価順位です(株価は2026年11月2日終値時点)。実力だけならトレンドマイクロが首位ですが、「今の株価で見たバランス」を含めると順位は変わります。
| 順位 | 銘柄 | 評価のポイント | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1位 | ソリトンシステムズ(3040) | 8社で最もバランスが良い。官公庁実績+今期上方修正、PER20.4倍と割高感が小さく、6期連続増配・利回り約2.45% | 官公庁の大型案件依存で四半期業績がブレやすい |
| 2位 | トレンドマイクロ(4704) | 規模・収益性・還元(総還元性向100%)は圧倒的。PER約30倍は実力の割に極端ではない | 今期はAIコスト増で減益予想。円高に弱い |
| 3位 | HENNGE(4475) | ARR+27%成長、解約率0.33%とSaaSの質が高い。自治体のクラウド移行が追い風 | PER約40倍。単一サービス依存 |
| 4位 | FFRIセキュリティ(3692) | 国策との距離は8社で最も近く、営業利益率31%超。政府系サービスが急拡大中 | PER約53倍・PBR16倍と最も株価が先行。今期1Qは減益スタート |
| 5位 | グローバルセキュリティエキスパート(4417) | アクセンチュアによるTOB中(1株8,500円、買付期間は12月15日まで)。成立すれば上場廃止予定のため参考順位 | 期末配当は無配予定(TOB成立が条件)。株価はTOB価格にほぼ連動 |
| 6位 | サイバーセキュリティクラウド(4493) | 高成長・高収益のクラウドWAF。ARR約50億円 | 今期の利益成長は+8.9%に鈍化見込み。小型株の値動き |
| 7位 | ブロードバンドセキュリティ(4398) | PER22.6倍は控えめ、増配+株主優待あり、今期は大幅増益予想 | 業績の振れが大きい(営業利益-62.6%の年も) |
| 8位 | セキュアヴェイル(3042) | ログ管理という政策親和性の高い領域 | 売上約13億円と最小規模、PER約79倍、直近四半期は赤字、今期は減配見込み。株価の乱高下が最大 |
※このランキングは公開情報に基づく分析上の評価であり、売買の推奨ではありません。株価の変動によりPER等の前提は変わります。

PR
📈 この株を買うなら(筆者が実際に使っている証券会社)
- SBI証券:口座数最大手クラス。国内株の手数料無料化と、1株から買える「S株」で少額スタートに
- 楽天証券:楽天ポイントで投資できる。楽天経済圏を使っている人に
- マネックス証券:分析ツール「銘柄スカウター」が優秀。数字でしっかり調べたい人に
- 野村証券:最大手の情報量と安心感。対面で相談したい人にも
🌍 English Summary
Japan Cybersecurity Stocks: 8 Companies Analyzed — Will This National-Policy Theme Bloom?
- Japan’s Active Cyber Defense laws took partial effect in October 2026, making asset filing and incident reporting mandatory for 258 critical-infrastructure operators — demand created by law, not hype.
- The domestic security market is forecast to grow ~12% a year to about ¥1 trillion by 2029 (IDC Japan), but foreign vendors hold ~60% share and prices already ran up sharply in October 2026 (P/E ratios range from 20x to 79x).
- Our balanced top pick on fundamentals, valuation and policy exposure: Soliton Systems (3040), followed by Trend Micro (4704) and HENNGE (4475). Figures as of the November 2, 2026 close.
Not investment advice.
【出典】各社の決算短信・決算説明資料(東証開示)、国家サイバー統括室・内閣官房の公表資料、財務省「令和8年度予算」資料、IDC Japan市場予測、総務省「令和8年版 情報通信白書」、会社四季報オンライン、東洋経済オンラインほか(2026年11月4日調査)。株価・指標は2026年11月2日終値時点のYahoo!ファイナンス・株探等のデータに基づきます。銘柄リストはテレビ番組で紹介された一覧(出所:智剣・Oskarグループ、LSEG Workspace)によります。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。将来の見通しには不確実性が伴います。

コメント